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十分に睡眠を取ったのに疲れが取れない――。いま、成人の5人に1人が睡眠に何らかの問題を抱えていると言われています。なかでも、睡眠の質を低下させる病気として注目されているのが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。睡眠医学の専門家であるRESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニックの白濱龍太郎先生に伺いました。
SASは、就寝中に呼吸が止まったり、止まりかけたりしては、いびきをかく――ということを繰り返す不安定な呼吸が起こる病気です。 そうなると、ふたつの方向で良くない影響が起こります。一つは、呼吸が止まって酸素が足りなくなるために自律神経のうちの交感神経が過敏になって、脳も体も緊張してしまい、睡眠の質が悪くなります。十分に寝たはずなのに翌日眠くなる、日中の集中力が続かない――。これは睡眠の質が低下しているからなのです。 一方、呼吸が止まり酸素不足の状態に陥れば、呼吸が再開されるたびに体に負荷がかかっています。その結果起こりやすくなるのが、高血圧、糖尿病、心房細動、不整脈、心不全、狭心症、心筋梗塞、認知症……といった病気です。夜間の突然死のリスクも上がります。
一般的に、SASという病気はBMI(体格指数)25以上の肥満体型の男性に多いというイメージがあると思います。ただ、全体の3割は、BMIは正常です。むしろ、あごの細い痩せ形の女性にも増えていますし、重症度は高くないものの、子どもにもみられます。ちなみに、小児の場合は、発達障害や学習能力の低下につながります。そのほか、鼻の病気によって口呼吸になっている人、閉経を迎えてホルモンバランスが変化した女性なども、SASになりやすい傾向があります。 そもそもアジア人である私たちは顔の骨格上なりやすい。このように、いろいろな方がなり得るということは、ぜひ覚えておいてください。
身近な病気である一方、自覚症状があまりない、あるいは症状があっても病気だと認識されにくいのが、SASの難しいところです。 たとえば代表的な症状であるいびきは、かいている本人は気づきにくいものです。そのため、糖尿病や高血圧、心疾患、脳卒中といった病気を引き起こしてから、その原因となっていたSASが見つかったという方も少なくありません。 呼吸が不安定になっているということは、知らないうちにさまざまな病気のリスクを上げているのです。そのリスクは、SASという病気にさらされている期間が長いほど高まり、リセットされるまでにかかる期間も延びるでしょう。 ですから、早く気づくことが非常に大切です。大きな病気や事故を起こしてからではなく、「あやしいな」と感じたときにぜひ検査を受けてください。
一般的に、SASの治療において、第一選択肢になるのは「CPAP(シーパップ)療法」という治療法です。一定の圧力の空気を送り出すマスクを装着して眠ることで、睡眠中に気道が塞がれて呼吸が不安定になることを防ぐというもので、一晩の治療で、睡眠の質の違いを実感される方も少なくありません。 CPAP療法用のマスクは、数年前までは大きいものばかりでしたが、最近ではコンパクトかつスマートなデザインで、見た目も着け心地も良いものが出ています。
また、SASの治療において一番大切なのは、患者さん自身が治療の必要性を認識し、主体的に取り組むことです。最近では、フィリップス「ドリームマッパー」のようにCPAP装置と連動して治療結果(1時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数、CPAPの使用時間など)を教えてくれるモバイルアプリや睡眠を評価したり、いびきを自動的に録音するアプリなどもあります。そうした現代ならではのツールも有効でしょう。 睡眠の問題は自己解決をめざす方が多いのですが、SASに関しては疑わしかったらまず客観的な検査を受けたほうが確実です。大きな病気につながる前に治療を行うことで、睡眠の質が上がり、人生の質も良くなります。
『睡眠時無呼吸症候群=SAS(Sleep Apnea Syndrome)』という病気は、人生の1/3を占める睡眠中に、あなたの寿命を脅かす危険な存在。 まずは病院へ行き、迅速な治療が大切です。
SAS患者の身体は、何とエベレスト頂上にいるのと同じレベルの酸素不足になっています。 血中の酸素が減ると、それを補うために心臓は心拍数を増やします。 その結果、心臓、血管に過度な負担がかかるのです。放置しておくと、やがて高血圧症、糖尿病、脂質異常症を呼び込み、動脈硬化が進行。 それにより不整脈、狭心症、心筋梗塞、脳卒中など、さまざまな合併症を誘発することにも。 その結果、SAS患者は普通の人に比べて、死のリスクが4倍高い、という報告がされています。
SASは、大きく2つのタイプに分類されます。 (1) 呼吸中枢の異常による「中枢性睡眠時無呼吸タイプ」 (2) 気道の閉塞が原因の「閉塞性睡眠時無呼吸タイプ」 特にSAS患者の9割が該当する(2)の場合、肥満などにより狭くなっている気道は、仰向けに寝ることで舌が下がり、閉塞を引き起こします。 その気道を広げることさえできれば、呼吸ができる。睡眠の質を改善できる。 そこで生まれた治療法のひとつが、「CPAP=シーパップ」という療法。 一定の圧力の空気をCPAPからマスクに送り、そのマスクを装着することで塞がってしまう気道を広げ、 無呼吸状態に陥るのを防ぐのです。
□肥満傾向かもしれない □高血圧である(もしくは高血圧の薬を飲んでいる) □会議中や運転中など、昼間も眠い □すぐ眠れるけど、しばしば目が覚める(トイレも含む) □いくら寝ても、疲れが取れない(もしくは頭痛を伴う)
□寝ている間の呼吸が止まっていることがある □寝返りの回数が多い(寝相が悪い) □朝、ノドが乾いている □アゴが小さい、または首が短くて太い □どこでもすぐ寝る
「CPAP」を使用したその日から、久々に良く眠れた、日中の眠気やダルさ、疲労感からも解放された、 という声も少なくありません。 人生の1/3も占める“睡眠”を幸せにすることは、健やかで満ち足りた生活を送ることにもつながるのです。 監修:東京医科大学睡眠学講座 教授 睡眠総合ケアクリニック代々木 理事長 井上 雄一
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